はじめに
整形外科、とりわけ脊椎外科の領域では、術前計画の策定にあたりX線画像からさまざまなパラメータを計測することが不可欠です。椎体の角度、脊柱のアライメント、椎間板の高さなど、多数のパラメータを正確に測定することで、適切な手術戦略を立てることができます。
しかし、この計測作業には大きな課題があります。
手作業による計測の限界
従来のパラメータ計測は、医師が1枚1枚の画像を目視で確認し、角度や距離を手動で測定するという地道な作業です。脊椎外科専門医を対象とした定性インタビュー調査(6施設・7名)では、1症例あたりの計測に10〜60分を要するとの声が報告されています。計測対象のパラメータ数や症例の複雑さによって所要時間は大きく異なりますが、日常的に画像計測を行う医師にとって無視できない負担です。
仮に1症例あたり20分・1日10症例の計測を行うケースで試算すると、医師1名あたり月間約72時間が手動計測に費やされる計算になります(20分 × 10症例 × 月21.5日)。施設や専門領域によって実態は異なりますが、計測業務が相当な時間を占めていることは共通しています。

特に臨床研究では、数百〜数千症例のデータを扱うことも珍しくありません。研究のために計測だけで数週間を要するケースもあり、研究の進捗を大きく左右する要因となっています。
さらに、手作業による計測には再現性の問題もあります。前述のインタビュー調査では、参加した専門医の大半が「属人性・再現性不足」を課題として挙げており、「測る度に結果が変わる」「誰かに任せるとデータの解釈が変わる」といった声が確認されています。
医師の働き方と計測業務
厚生労働省が実施した「令和元年医師の勤務実態調査」(3,967施設、医師20,382名対象)によると、病院勤務医の約37.8%がいわゆる「過労死ライン」(週80時間、年960時間換算)を超える長時間労働に従事しているとされています。
2024年4月から施行された医師の働き方改革関連法により、勤務医の時間外労働にも上限規制が設けられました。限られた時間の中で、自動化できる業務は積極的に自動化していくことが求められています。

AI自動計測のアプローチ
AI(人工知能)を用いた画像計測では、ディープラーニングによる画像セグメンテーション技術を活用します。具体的には以下のステップで計測が行われます。
- 画像の入力 — X線画像をシステムにアップロード
- 個人情報の保護 — 患者情報の匿名化処理
- 画像処理・最適化 — AI解析に最適な画像前処理
- AIによる完全自動計測 — 学習済みモデルが椎体や骨格構造を自動で検出・セグメンテーションし、パラメータを算出
- 結果の出力 — 計測結果をレポート・CSV出力で確認

この一連のプロセスにより、画像1枚あたりの計測を約1分(アップロード・前処理含む)で完了できるようになります。前述の試算条件(20分/症例 × 10症例/日)に当てはめると、月間の計測時間は約72時間から約3.6時間へと大幅に短縮されます。

精度と信頼性
AI自動計測の実用化にあたっては、精度の担保が最も重要な課題です。MedIRでは、整形外科専門医の監修のもと、大規模な教師データを用いてモデルの学習を行っています。
計測精度の指標として、以下の値が確認されています。
| 指標 | 値 | 説明 |
|---|---|---|
| ICC(級内相関係数) | 0.92以上 | 専門医の手動計測との一致度 |
| MAE(平均絶対誤差) | 2.0°未満 | 計測値のずれの平均 |
これは脊椎アライメントを含む複数パラメータの総合的な精度であり、専門医の測定者内誤差と同等の水準です。なお、Cobb角単独での自動計測では文献上ICC 0.99以上の報告もあり(Sun Y, 2022)、パラメータの種類によって精度は異なります。すべての計測結果は可視化画像とともに出力されるため、医師が目視で確認・検証することが可能です。
まとめ
脊椎X線画像のAI自動計測は、医師の業務効率化と研究の加速を両立させる技術です。手作業の限界を超え、より多くの症例データを短時間で処理できるようになることで、整形外科診療と研究の質の向上に貢献します。
MedIRは、この技術を整形外科の現場に届けるべく、専門医の知見とAI技術を融合させたプラットフォームを提供しています。
参考文献
- 厚生労働省「医師の勤務実態調査(令和元年)」— 3,967施設・医師20,382名を対象とした大規模調査。病院勤務医の約37.8%が過労死ライン超の長時間労働に従事していることを報告
- Morrissy RT, et al. "Measurement of the Cobb angle on radiographs of patients who have scoliosis." J Bone Joint Surg Am, 1990;72(3):320-327. — Cobb角の手動測定における測定者間誤差が3.8〜7.2°に達することを報告
- Sun Y, et al. "Comparison of manual versus automated measurement of Cobb angle using deep learning." Eur Spine J, 2022;31:2560-2567. — ディープラーニングによるCobb角自動計測がICC 0.994を達成
- Kim DH, et al. "Artificial intelligence in spine imaging: a systematic review." Eur Spine J, 2023. — 脊椎画像におけるAI自動計測の精度と臨床応用を体系的にレビュー
- Zhu Y, et al. "Artificial intelligence for Cobb angle measurement: a systematic review and meta-analysis." BMC Musculoskelet Disord, 2025;26:45. — AI Cobb角計測50研究のメタアナリシス、統合平均絶対誤差(CMAE)2.99°